量子力学は、この世界がシミュレーションである証拠
誰も見ていないとき、粒子は位置さえ決めていない。それはまるで、見られた場所だけを描くゲームのようだと言われます。
噂の内容
オープンワールドのゲームをしたことがあるでしょうか。広大な街が広がっているように見えて、実はコンピューターが描いているのは、プレイヤーの視界に入っている部分だけ。背中側の景色は、振り返った瞬間に計算されます。限られた処理能力で世界を丸ごと再現するための、よくある節約術です。
ところが、私たちの宇宙にも、これとそっくりな性質があると言われます。量子力学によれば、電子や光の粒は、観測されるまで位置や状態がひとつに決まっていません。いくつもの可能性が重なり合ったまま漂い、測った瞬間に初めて、ひとつの答えに落ち着く。見られるまでは描かない。これはレンダリングの節約そのものではないか、というわけです。
疑いは、ほかの物理法則にも向けられます。宇宙にはこれ以上細かく分けても意味がないとされる最小の長さ「プランク長」があり、まるで画面の画素のようです。どんなものも光より速くは動けないという上限は、処理速度の限界に見えてきます。遠く離れた二つの粒子が、一瞬で互いの状態を知っているかのようにふるまう「量子もつれ」は、同じメモリを参照しているせいだと考えれば、すんなり説明がつきそうです。
さらに2012年には、アメリカの物理学者たちが「もし宇宙が格子状の計算で作られているなら、宇宙から降り注ぐ高エネルギーの粒子に、その格子の痕跡が現れるかもしれない」という論文を発表しました。世界がプログラムかどうかを、実験で確かめようという試みです。起業家のイーロン・マスク氏が、私たちが本物の現実にいる確率は数十億分の一だという趣旨の発言をしたことも話題になりました。物理学の最前線は、いつの間にか、この世界の正体という問いに触れ始めているのかもしれません。
ささやかれる証拠
見るまで
決まらない 世界 量子力学では、粒子の状態は観測するまでひとつに定まらないとされます。見られた部分だけを計算するゲームの描画と重ねて語られ、この説のいちばんの柱になっています。
宇宙の
「画素」プランク長 物理学には、それ以上細かい長さを考えても意味がないとされる最小単位があります。連続に見える空間が、実は細かなマス目でできているのでは、という想像をかき立てます。
光速と
いう 処理上限 情報も物質も光より速くは伝わりません。宇宙全体に共通する速度の上限は、コンピューターの処理速度の限界のように見えると言われます。
物理学者に
よる 検証の 提案 2012年、宇宙が格子状の計算で作られているなら高エネルギーの宇宙線にその痕跡が出るはずだ、という論文が発表されました。専門家が真剣に検証方法を考えたこと自体が、説に重みを与えています。
「すべては
情報」と いう 考え 物理学者ジョン・ホイーラーは、物理的な存在の根っこには情報があるという「It from bit」という考えを示しました。世界の土台が情報なら、それを計算する何かがあってもおかしくない、というわけです。
表向きの説明
量子力学で「観測」と呼ばれるのは、人が目で見ることではなく、測定装置や周りの環境と粒子が相互作用することを指します。観測するまで状態が定まらないという性質は、100年近くにわたって実験で確かめられてきた自然のふるまいですが、それを「計算の節約」と結びつけるのは比喩であり、物理学として示されたものではありません。プランク長も、現在の理論が通用しなくなる目安の長さで、空間が画素でできていると確認されたわけではないとされます。
2012年の論文は、宇宙がシミュレーションであると主張したものではなく、仮にそうだった場合にどんな痕跡が出うるかを検討したものです。一方で2017年には、量子の性質をふつうのコンピューターで再現するには、とてつもない計算量が必要になるという研究も発表され、シミュレーションはかえって難しいのではないかと話題になりました。今のところ、この世界がシミュレーションであることを示す観測結果は得られておらず、そもそも確かめられる問いなのかも含めて、議論が続いています。
ちなみに、「量子もつれ」を使えば光より速く通信できそうに思えますが、実はできないことがわかっています。二つの粒子の結果には不思議な相関がある一方で、片方の結果は毎回ランダムにしか出ないため、そこに意味のある情報を乗せられないのです。量子もつれの実験で道を開いた3人の研究者は、2022年のノーベル物理学賞を受賞しました。宇宙は不思議でも、光速のルールだけはきっちり守っているようです。
さて、あなたはどちらを信じますか。この噂、誰かに話したくなったら