文字
企業・食べ物 / ハンバーガー

安いハンバーガーの肉はミミズでできている

あの値段で牛肉のはずがない。昭和の子どもたちは、パティの正体をひそひそとうわさしました。

Since:1970〜80年代Evidence:3

1970年代、日本にアメリカ生まれのハンバーガーチェーンが次々と上陸しました。紙に包まれて手渡される丸いパン。片手で食べられる新しい食べ物は、若者や子どもたちを夢中にさせます。けれど同時に、ある黒いうわさも一緒にやってきました。

「あの肉、牛じゃなくてミミズらしいよ」。安すぎる値段、どれも同じ形の薄いパティ、独特の食感。すべては大量のミミズをすりつぶして固めているからだ、というのです。中には「ネコの肉」「ネズミの肉」というバージョンまで存在しました。ミミズは栄養たっぷりで安く大量に手に入る、だから業者にとっては好都合なのだ、という妙に理屈っぽい説明まで添えられていたのです。

噂は放課後の教室や塾の帰り道で、友達から友達へと伝わりました。「おじさんが工場で見たって」「テレビで言ってたらしい」。出どころはいつもはっきりしないのに、話だけはどんどん具体的になっていきます。聞いた子どもは翌日、少しだけ勇気を出してハンバーガーをかじり、また誰かにその話をするのでした。

やがて価格競争が激しくなり、ハンバーガーの値段はさらに下がっていきます。一時は100円を下回る値段で売られた時期もあり、「この値段ならなおさら怪しい」とささやく声が再び聞かれるようになりました。安くなればなるほど、あの噂はまた息を吹き返すのです。

  • とにかく安い

    外食の中でもハンバーガーは手頃な価格で売られてきました。「牛肉でこの値段は無理だろう」という素朴な疑問が、噂の最大の燃料になっています。

  • パティが均一すぎる

    どの店で食べても形も厚さもそろった薄いパティは、ふだん家庭で見るひき肉料理とは印象が違います。工場で何かを固めて作っているような見た目が、想像をふくらませました。

  • 出どころが見えない

    新しい外食チェーンがどんな工程で肉を加工しているのか、当時の消費者はほとんど知りませんでした。見えない部分を、人は怖い話で埋めてしまいがちです。

ハンバーガーのパティにミミズが使われているという話に根拠はありません。大手チェーンは牛肉100%のパティであることを公式に示しており、原材料や産地の情報を公開しているところもあります。価格の安さは、大量仕入れや調理工程の効率化によるものと説明されています。

そもそも、ミミズを食用として大量に集め、衛生的に加工するのは非常に手間がかかり、牛肉よりはるかに高くつくと指摘されています。安さへの疑問から生まれた噂が、実際のコストとは逆の話になっているのは皮肉なところです。同じような噂は海外でも語られたことがあるとされ、新しい外食文化が広まる時期に生まれやすいタイプの都市伝説だと考えられています。

ちなみに、ミミズがまったく口に入らないものかというと、そうでもありません。乾燥させたミミズは「地竜(じりゅう)」と呼ばれ、漢方の世界で古くから解熱などに用いられてきた生薬として知られています。ハンバーガーには入っていませんが、薬の棚には並んでいることがあるのです。

さて、あなたはどちらを信じますか。この噂、誰かに話したくなったら